の土台を穴倉から覆すことがあれば、彼は自身が憎悪に燃えつつ膏汗を代償として奪い掴んだ一片のものさえ放棄しなければならなくなるであろうことをまがうかたなく知っていたからである。
「革命の与える経済的擾乱ほど悲惨なものはない。」最悪よりはより尠き悪を、大衆による広汎な悪徳の伝播よりは、まだしもブルジョアの今のままでの悪行を! そして、自分が無一文になるよりは腹立たしいが今あるものを手離さず! そういうのがバルザックの考えかたの道筋なのであった。
私達はここで一つの意味ふかい手紙の数行を思い起すのである。一九三三年一月に蔵原惟人が獄中から或る友人に宛てて書いた手紙の中にバルザックのことがトルストイとの対比においてふれられている箇所がある。すでにその時分、プロレタリア作家の一部にリアリズム研究の対象としてバルザックがとりあげられ、それに関して獄中の彼へ手紙が送られたのに答えたものである。手紙の筆者が「復活」のネフリュードフやカチューシャが写実的にかけていないこと、その点ではむしろバルザックの諸作品の方がすぐれていると、当時の流行にしたがった解釈を来しているのに対し、蔵原は、トルストイが「復活
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