」においては「アンナ・カレーニナ」や「戦争と平和」をも含む自分の過去のすべての芸術作品を否定し、それ以上のものを望んだのであるが、「彼がそれによって立っていた思想が間違っていたのと、彼が理想というものを社会の現実的な発展以外のところから取って来たから」破綻したこと。「これに反してバルザックは自分の観照の世界に満足してそれから一歩も外に出ようとしなかった」ことを指摘している。書簡は更に不自由そうに「哲学者は世界を様々に解釈して来た、しかし重要なことは云々というフォイエルバッハ綱領の中のマルクスの言葉はそのまま芸術の場合にもあてはまります。芸術はこの世界をあるがままに描写していればよいのではありません。この意味で人及び芸術家としてのトルストイは到底バルザックなどの及ぶところではないと思います。」と、現実観察の急所にふれているのである。
一八三〇年七月革命後、常に蝙蝠《こうもり》傘をもって漫画に描かれた優柔不断のルイ・フィリップがブルジョアジーの傀儡《かいらい》君主として王位についた時、一層凡庸化し、銭勘定に終始する俗人共の世界に反抗して、ユーゴー、ド・ミッセ、デュマ、メリメ、ジョルジュ
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