にパリの門番の本性について説明する。引つづいて読者はひどく精密であるが全く無味乾燥なユロ男爵家の系図の中を引きまわされるのであるが、普通の読者は、その数千字を終り迄辛棒して結局は、最初の行にあった四字「ユロ男爵」だけを全体との進行の関係で記憶にとどめるような結果になる。
やっと客間のドアが開けられた。我々の目前にユロ男爵夫人、その娘オルタンス、その娘に手をひかれた老嬢ベットが現れる。
忽ちベットのまわりをぐるぐるまわってその服装の細を穿った説明に絡んだ作者の解釈。客間の古び工合の現実的な観察。その客間で、「昔は杏ジャムやポルトガルの濁酒《どぶろく》を売った小商人」今ではブルジョア化粧品屋でユロ男爵の息子にその一人娘を縁づかせている五十男のクルベルが、安芝居のような身ぶり沢山で、而も婿の生計を支えてやらなくてはならぬ愚痴を並べ、借金の話、娘の持参金についての利子勘定のまくし立てるような計算と全く渾然結合して、道楽な良人のために悲運にある貞潔なユロ男爵夫人に厚顔な求愛をする。
ユロ男爵夫人の目下の全関心と母としての宗教的な努力は父親の放蕩で持参金も少ない一人娘オルタンスを、身分のつり
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