せる。金銭の利害が人を支配するということをあれだけテーマとしている彼が。それだけに又「幻滅」ダヴィドとエーヴ、ポンスのような人物を描いたのだとも云える。そして決定的な一つのことを語っている。あらゆる大芸術家の重大な資質の一つは善良さと純潔な人間性であるということについて。
「二世紀(十五・六世紀、ルネッサンス)というものは権力に抗う人々が『自由意志』の怪しげな主義を築くために費された。更に二世紀(十七・八世紀)というものは、自由意志の第一段の必然帰結たる信仰の自由の発達を促すために費された。我々の世紀(十九世紀)はその第二段の必然帰結たる国民権《リベルテ・ポリチック》(普選)を築こうと試みているのである。」
「一八四〇年(ルイ・フィリップ)のフランスとは如何なる国であろうか。」
「われわれにとって国家なんていうものは――」

 すべてが完成されたと云われるこの時代に、すべての名誉も何も金! 金! 金! そこで極端な辛辣さが知性にびまんした。節操を失った。
 ジャン・ジャック・ルソーを嘲弄し、サン・シモンをせせら笑う。何ものも信じない。幻滅を通った七月革命後のフランスの堕落とバルザック。
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