バルザックについてのノート
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)俄《にわか》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「鹿/(鹿+鹿)」、第3水準1−94−76]皮
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バルザックの小説
バルザックの世界において、性格は寧ろ単純である。強烈ではあるが、各々がタイプとして凝固されている。その性格の中にとじこめられている。むしろきゅうくつに存在している。主人公たちは自身で自分たちの性格を破る力を与えられていない。
しかし、真におどろくべきことは、バルザックがこのむしろ単純な性格の人々が遭遇した社会的関係の紛糾を描き出している巨大な力量である。
彼が大作家たる所以はここにある。
「幻滅」のリュシアンは、高く低く波瀾は大きいにしろ、性格としてはありふれて凡俗な才気と野心と浮薄さと意志しかもっていない。しかし彼を翻弄した上流人の生活詐術、十九世紀の金力と結びつき権力と結びついた新聞人の無良心的な関係、手形交換に際して行われる金融の魔術――アングレー
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