。みんな一日七時間――八時間の労働をすますと、風呂で体を洗って家へ帰るように設備が出来ているのだ。
「訪問者の家」はすっかり家族的なやりかたである。寝室が別なだけで食事でもお茶でも来合わせている者が食堂へ集って談笑しながら賑やかにたべる。夕飯のときは、ソヴェト同盟における炭坑の経済状態研究のためにレーニングラードから来ている学者が面白い話をして皆をよろこばせた。学者と云っても、書斎にだけこびりついて青ざめている学者ではない。彼は十月革命の当時、レーニングラードの鋳鉄工場にバリケードを築き銃を執ってプロレタリア解放のために闘い、後赤軍にいたことのある闘士である。

 夕方七時頃、われわれは再び「訪問者の家」を出かけた。秋のことだから、四辺《あたり》はすっかり暗い。黄葉した樹の葉と枯れ始めた草の匂いがガス燈に照らされた道に漂っている道が原っぱのようなところにひらけた。先に立って歩いていたドミトロフ君が、
「鉄道線路があるから、つまずかないように!」と注意した。暫く行くと草に埋もれて、複線のレールが古びている。これは又何故か? 私は不思議に思った。すべてのものを役に立てるソヴェト同盟の労働者
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