デスデモーナのハンカチーフ
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)媚《こ》び

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)一枚のもの[#「もの」に傍点]であるハンカチーフに
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 ルネッサンスという時代が、理性の目ざめのときであるけれども、その半面にはまだどんなに智慧のくらさを曳いていたかということはオセロにもつよくあらわれている。オセロの悲劇は美しくやさしいオセロの妻デスデモーナが、女として一枚のハンカチーフをどう扱ったかというところにかかっている。
 エミール・ヤニングスが映画のオセロに扮したとき、彼はそのもち味で、黒人の英雄であるオセロの直情径行の素朴な人間性とデスデモーナへの情熱の面を強調した。シェクスピアは、オセロをもうすこし複雑に生かしている。黒人英雄の官能をつき動かす濃くあつい血の力のほかに。シェクスピアのオセロの心理には、黒人という生れあわせに対するオセロの白い皮膚のひとと等しい人間的尊厳の主張や自尊心やが作用している。美しいしとやかなデスデモーナが、父の許を訪ねて来て、その雄々しい物語をするオセロに心をひかれ
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