、結婚する気分もルネッサンスらしい。また、植民地膨脹期のエリザベス朝の戯曲家シェクスピアが生きた時代のイギリス感情でもある。
 オセロの黒檀のようなつややかなきつい人間美。デスデモーナの柔かく白い大理石のような美しさ。その二人の間に、オセロの愛のしるしとして一枚のきれいなハンカチーフが存在する。イヤゴーはオセロとデスデモーナの白と黒との異国的な調和の美が完成されたまますぎてゆくことに、焦だった刺戟を感じる。人間の苦しみ、まどいする姿を、いま幸福なこの夫婦の上に現出して、そこを眺めたのしみたくなって来る。デスデモーナのハンカチーフは、イヤゴーのその詭計の媒介物としてつかわれた。オセロの嫉妬をかきたてるために罪ふかい一枚の布きれとして利用される。デスデモーナはそのハンカチーフをぬすまれ、しかもそれを男にやったように、イヤゴーに仕組まれた。
 デスデモーナが、ハンカチーフのなくなったことを心づいてからの心配は、はためにいじらしい限りである。このハンカチーフは、お互のまことのしるしとしてあげるのだからなくさないように、とオセロに云いわたされた、そのハンカチーフがなくなってしまった。デスデモーナ
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