自己の深さを、灼熱と冷却とにおいて知ろうとする p.194

   ここにおけるDの意味
○ドストイェフスキーが贏ようとつとめた共同体はもはや社会的なものではなくて宗教的なものである。彼は社会を求めないで、世界親和を求める。
 自我人より全人。兄弟愛 和解
  「悪霊」を読んでみたい。

     Dのリアリズム
       自然主義(科学に立っている)とのちがい

○顕微鏡の力と予言者の視力とをかね備えた 彼の幻想家的な知力にとむリアリズム、p.202
○一切を彼は不思議に内部から認識する ゾラとの著しき対比
   フランスの自然主義の欠点 静物
○ドストイェフスキーは聴覚の天才
○直観的リアリズムの最高の勝利。
◎しかも猶 夢遊病者として感ずるのは何故であるか? p.220
     解答
○彼の宇宙は世界ではなくて ただ人間だけである。風景に対して魯鈍である。p.221
○汎神主義の貴重な五穀が欠けている。長閑《のどか》さの欠乏、

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 ツワイクの解答は p.220 以下 弱い。率直に、ドストイェフスキーの人間界は人間性の極度の緊張、意識された対立の誇張、観念の子として説明すべきだ。つねに存在の最上級に居り、永遠に醒めている、互に誤解することさえない

 СССРが何故Dの作品を出版しないか
 その理由は、彼の芸術におけるこの危険にとんだ二重性による おどろくべき迫真力と虚構との。
 それこそドストイェフスキーの天国と地獄だったのだが。
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○彼の情熱的意力におけるわれわれの意志喪失 p.234
○ドストイェフスキーよりもシェイクスピアは人間の精通者である。p.226

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 ツワイクはDとレンブラントとを同類としている。しかしこれは当っているだろうか、明と暗との対比が似ているからと云って? レンブラントの暖かさはDの何処に?
 これはDの対立の分析の正確さをこわすほど安易な対比である。
[#ここで字下げ終わり]

     構築と激情

○Dの熱情が常に作品の中に一への原始的混沌をもたらしている。決して調和に達していない。p.232
○生活力の総額の数秒時における痙攣 p.241
○彼の作品における 時間と空間との克服の能力は、認識の及ばないところである p.241
○つねにわき返っている肉と脳髄である。p.243
○彼の作品の冗漫性にある意味――事件の骨骼の下に、対話の肌の下にこうも 神経を一貫したような物語の体系をもたない。p.245
○限界のない人間は永遠のものに到達出来るけれども、模索することは出来ない p.246
  芸術
   ‥  の問題の根源として。
  モラル     ↓
◎芸術は永遠に満たされぬ者にとってはただ一つの端初にすぎず、その終末は無窮の中にあるのだ。それは一階梯にすぎず殿堂そのものではない。

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 この事実は、芸術家の大きい魂の真実にふれている、常に自己を超えようとする本能的な焦慮
   ○限界の突破
 そして、このことは平安を彼から奪うことを予約している。しかも 彼が芸術家であれば
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◎芸術家は完成と静けさにおいて形成することを希うアーティストの制御しがたい憧れ をもっている、
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 とをもっている。この二つの間にゆれる。そして最も強壮な精神だけがこの調和しがたい二つの本源的なものを、調和せしめ得る。
 ○文学者への扱いかたのむずかしさの核もここにある。
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◎ドストイェフスキーの文化上の貢献の意味ふかいものは自己認識の巨大な拡大 である。p.254
     ‖
 無意識のものとか 潜在意識のものとかいう底知れぬものが彼の真実の世界であった。p.254
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〔欄外に〕
 私――その崩壊――国民――再びそれとしての自分、この戻りかた。
 芸術の根本的本質を持たないまま 日本の私小説はそこからぬけ出して、かえり見るだけの力の限界を踰えてより拡大された自己認識を与えるに成功し得なかった。
 今日の文学の課題
 尾崎士郎
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◎一つの慾望が今度はしっかりと決定するかと思われながらつねに他のものに還ってゆくことが暗示されている、――凡ゆる衝動が永遠の変化の中で相互にもつれている。p.259
○彼等が慾求するのは 慾望の充足を希うがためのみならず、それと同時にまた慾望を拒否された堕地獄の状態をも希うがためである。
○対立は対立を生むのである。p.259
○狂暴な循環の中に彼らの意欲の旋風は渦巻いている。p.260
○われわれは彼以前にこれほど密集的な感情の多様を知らず われわれの霊的混淆についてこれほど
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