ものを拵えはじめた。毎日の生活の中で何か際立った印象をひき起した事件や人物があると、ツルゲーネフは、彼がバザーロフのタイプとして型をつけた一定の考えかたにはめこんで、批判し、書きつけて行った。
ツルゲーネフ自身の毎日の暮しぶりとは関係なく、このような方法でこしらえられたバザーロフが、畸形的であり、漫画的なものとなったのは、さけがたい当然の結果であろう。「父と子」において六〇年代の溌剌たる青年男女をとらえようとしたツルゲーネフは、自分たちを現実主義者と名づけ、宗教、私有財産制、そこから生じる一切の不合理、暗愚と偽瞞をとりのぞいて知慧の光に輝く社会の共同生活を発見しようとしている若い急進的青年を「ニヒリスト・虚無主義者」という名で、批判したのであった。保守派、反対派は欣喜雀躍してツルゲーネフのそのよびかたを、それから適用するようになった。ツルゲーネフは最も急進的な作品を描こうとして、実際においては反動的効果に陥った。
ところで、こんなにもツルゲーネフの一生にとって重大な意味をもっているパリは、何によって彼をそのように牽きつけ、魅惑したのであろうか? 果して、ツルゲーネフが回想に書いてい
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