金つきの商略的結婚制度に、外見上の一夫一婦制に、大きな虚偽を見出している。
これらの、本質においては極めて健康なそして尊敬すべきそれらの懐疑を発展させて、解決させるに当って、トルストイは自身の大地主、大貴族的生活からの考えかたや感情に制約され、すべてを人類の霊魂の高まりによって解決しようとした。そして宗教へささり込んだ。トルストイは、自身の全存在をかけて雄渾に且つ悲劇的に自身の懐疑ととりくみ、そのことに彼流の矜恃をも感じているのである。ツルゲーネフが、自身の生活はなまあたたかく動揺のないところに引こめておいて、傍観的な人生に突っこみの足りない態度で小説を書いて行くその生きかたが、トルストイには全く気にくわなかったのであろう。
ガルシンはこの二人の喧嘩についてこう書いた。「ツルゲーネフの言によると、トルストイがツルゲーネフのことで一番癪にさわっていたのは、極めて冷静に文学的著作に従事しているその態度であった。」そして、「ツルゲーネフが善事に向って進むという、その善良なるものを絶対に信じなかったのだ」と。ツルゲーネフがガルシンに云った冷静という言葉の内容、トルストイが信じなかった善事と
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