よせるようにして軽く唇を噛んでる。何か考えるときオーリャの癖だ。
ドッコイショ。信吉は自分で二十本ばかりの鉄片を抱えこみ、オーリャの仕事台まで運んで、ガシャンと幾分ひどい音を立ててコンクリの上へおいた。
オーリャが顔をもちあげた。信吉を見てニッコリした。頬っぺたから髪を払おうとするように頭を一振りし、
「よめた? あのビラ――」
やっぱり、同じこと考えてたのか!
信吉は嬉しくなって、熱心に、
「読んだとも!」
と答えた。
「よく書けてる」
「――集会へ出るだろ?」
「出る」
「じゃいいワ。――終り!」
失敬するようにサッと片手を信吉に向って振り、オーリャはまた仕事にかかる。信吉も自分の台へ戻った。
四
「おーい、誰か鉛筆もってないか?」
幾重もの人垣の中に脚のガタついたテーブルが軋んでる。労働通信員グーロフが襟あきシャツのポケットじゅうを探りながら怒鳴ってる。
「おい、鉛筆……」
「ホラよ」
テーブルの前へ突立っていたヤーシャが、金網をかぶせた腕時計を覗いた。ちょっと爪立つような恰好でテーブルへ手をかけ、
「タワーリシチ!」
喋りはじめた。
「シッ!
前へ
次へ
全116ページ中97ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング