問題」とだけ黒だ。パッと目をひくように、うまく書かれている。
「何だい?」
「何ヲ考え出したんだネ、暑いのにヨウ」
 わざわざ仕事台から離れてビラを壁のところまで読みに行く者もある。
 読んじまっても、みんな、すぐには行っちまわない。党員で、職長のペトロフまでゆっくり奥から出て来て、ビラの前へ立った。
「こりゃ、いい思いつきだ」
 もう一遍よみかえして見て、
「――ほかの職場連中知ってるのかネ?」
 アーニャがゴシゴシ手鑢をつかいながら、暑気を震わすような甲高い自信のある声で返事してる。
「グーロフがかけずりまわってるヨ」
 確にビラは金的を射た。みんなの注意をひきつけた。
 丸まっちい鼻の頭から下瞼の辺にかけて粒々汗をかきながら赤いムッツリした顔して信吉は働いてる。が、ビラによって起った職場のみんなの心持の反応は、信吉に一つ一つハッキリ感じられる。
 実のところ、信吉は人に知れない初めて経験する一種の亢奮につかまれているのだ。
 ソヴェト消費組合の活動に向って大衆を招集し、監督鼓舞すべき任務を示した論文が「プラウダ」に出た。それを昼休みにヤーシャがみんなに読んできかせたからではあるが
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