いて食えませんよって監督してるんだろ」
信吉はヤーシャから新聞をうけとり、膝の上へひろげてウンサ、ウンサ一行二行と綴字を辿って、読まれた論文のよみ直しをやってる。
区の「コムソモールの家」に文盲撲滅の講習会が開かれている。信吉は一晩おきに欠かさず通い、どうやら読めるようになったところだ。
新しい世界が信吉の前へ一層深くひらきかけてる。
オーリャの声だ。
「われわれんところじゃ、随分『機能清掃』がやられてるけれど、まだ消費組合の内じゃ、バタの大きい塊りが頭の黒い鼠にひかれたりするんだ」
信吉は、昨日アグーシャから聞いた話を思い出して云った。
「――『赤いローザ』じゃ工場ん中の女代議員が、消費組合監督の突撃隊をこしらえたそうだぜ」
「……あすこはドダイ女が多いんだ」
「ちょっと!」
オーリャが、のり出して強い美しい目で皆をグルリと見た。
「そういう問題に男と女の区別がある? まして、直接大衆の食糧問題と結びついてるとき、男と女の区別がある?」
「異議なァし! タワーリシチ!」
ヤーシャが半分冗談みたいに、陽気に叫んだ。
「これは、階級的な問題だ。オカミさんだけの問題じゃない。
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