たら、ハアそれなりオダブツだぞウ」
いつの間にか細かい雪が窓から入って来て、夜具の裾へ手で掬うほど吹きだまりをこしらえていた。
みんな、厚いメリヤス・シャツのまんま寝る。信吉はその上へジャケツを着こみながら、窓んところへ額をおっつけて戸外を見た。何とも云えぬ艶をもって壮厳な碧黒い空が枝という枝の端まで真白く氷花に覆われた林の間から重く見える。
「ほんとに凍《し》みらあ」
信吉は、起きぬけの素足の指を布団の上で海老にした。
ひどく凍ると空気は板みたいに強《こわ》ばって、うまく吸いこめるもんじゃない。飯場へ行くまでにも髭は白くなるし、頬っぺたや口のまわりが針束で刺されるように痛んだ。
ガヤガヤ云って汁かけ飯を食ってると、信吉なんか口も利いたことない若いのが、防寒帽をかぶって外から飛びこんで来るなり、
「おーい、二十七度だぞウ!」
と怒鳴った。
「ほんとけ?」
嬉しそうな声がした。
「そうはなるめえ、こんでも……」
「見て来たんだぞ、わざわざ事務所へ行って! 二十七度強だアしかも」
「占めた!」
ドスン。誰かが飯台をはった。
「今日は休みだぞウ」
信吉は、キョトンとした顔で、
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