に二八パーセントも殖えてる。これがわれわれの事実[#「事実」に傍点]だ!」
「異議なし!」
 アーニャが手を挙げた。
「どっち道、その女工場委員はホントのボルシェビキじゃなかったんだ。何故逃げたんだ? 外国人つれて。――云わしゃいいんだ。大衆の口をふさぐことは許されてねえ。事実[#「事実」に傍点]で証明すりゃいいんだ」
 信吉は、全力をつくしてみんなの言葉を理解しようとし、オーリャが今に何とか云うかと待った。がオーリャは始めっからしまいまで黙ってボイラーに腰かけ、上被のほころびを繕ってた。

 四日ばかりして、こんなことがあった。
 昼のボーが鳴って、洗面所の水道栓が一時に盛にジャージャー使われるので冷たい滴をいっぱいつけた。
 それから信吉が食堂へ行って見たら、売店のガラス棚の中には、胡瓜がエナメル皿にのっかってるぎりでカランとしてる。蠅とラジオの音楽とがある。
 肩幅のある鍛冶部の連中が所持品棚から手付コップをもってやって来た。ソヴェト同盟では、高熱作業や有害ガスの立つ作業をやる労働者は、組合の労働保護費で毎日牛乳を支給されてるんだ。
 手に手にコップつき出して台の前へ列になった。
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