ね? そのスカート穿いた工場委員は?」
「判りきってるヨ。だって、そりゃ……判りきってる!」
 ボイラーに腰かけ足をブラくってるちび[#「ちび」に傍点]のアーニャがせき込んだ。
「外国人て、どうせブルジュアか社会民主主義者じゃないか、恥だわ。階級の敵だよそんな女!」
「――奴等あ、それに、とても素敵な写真機械をもってるんだ。歩きながら写しちまうんだ。パチリ! すんじまう。……俺あ見たことがあるんだ」
 驚歎と憎悪とを半々に浮べた眼付でノーソフが云った。
「そして、新聞へ出すんだ。例えば、ソヴェトの哀れな労働者は社会主義国に暮しながら、毎朝こんな混み合う電車にのって、工場へ通わなければならない。そう書いて出すんだ。……国防飛行化学協会《オソアビアヒム》のクラブ図書室へ行って見な、あるぜ。そのイギリスの新聞が」
 みんな黙った。暫くすると、キャラメルの唾を吸いこみ吸いこみ、
「フン!」
とアーニャが顎をつき出した。
「じゃ大方イギリスの資本家は、さんざっぱら合理化してチョンビリ残した労働者を一人一人馬車へでものっけて運んでるんだろ!」
 ワハハハハハハ。
「でかした小母ちゃん!」
「ついで
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