(※[#ローマ数字「IV」、1−13−24])[#「(IV)」は縦中横]

        一

 暑い真昼だ。
「鋤」の旋盤第三交代の連中が、食堂の北側の日かげに転ってる古ボイラーのまわりで喋くってる。だんだん討論みたいな形になって行った。
 職場のコムソモーレツ、ヤーシャの妹が煙草工場へ出てる。昨日その煙草工場見学にどっかの外国人が三人やって来た。ちょうど今みたいに昼休みで、食堂や図書室に婦人労働者連がガヤガヤしていた。すると、その中のニーナという女が、やっとロシア語の少しわかるその外国人をつらまえて、お前さん方、私共ソヴェトで社会主義がどんなにうまく行ってるか見に来たんだろ? サア、よく見て行っておくれ、私共が何を食って五ヵ年計画のために働いてるか。私達は餓えてるんだ! と喚き出した。
「工場委員会の文化宣伝部員の女が案内していたんだそうだ。ひどく泡くって、ニーナに怒りつけ、外国人を急いでそこから連れてっちまったんだとよ」
 ボイラーの下へ片肘ついて横んなりながら草をひきぬいて噛んでた赫毛のボリスが、軋んだような声で呻った。
「――何だってまた、大衆の口へフタをしたんだ
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