。
窓前の油布のかかったテーブルに、グリーゼルがその上で食物を拵えてた石油焜炉とコップが置いてある。
いつもは、通り抜けてばかりいたグリーゼルの室を、そっちこっち歩きまわって見た。
昨夜信吉が「文化と休み公園」から帰って来たのは十一時過だった。
果汁液《クワス》を飲みすぎたか、腹の工合が変なんで便所へ入って居睡りこきかけてたら、階段をドタドタ数人が一時に登って来る跫音がした。
便所の傍を通って、信吉が出て来たグリーゼルの借室の戸をあける音がする。跫音は沢山なのに話声がしない。
出て来て見て、信吉は一時に睡気を払い落された。
室の入口に突立ってるのは当のグリーゼルだ。
若い男が二人、寝台の下から乱暴にトランクを引っぱり出したり、寝台のフトンをめくったりしている。
卓子からちょっと離れたところに、脊広を着た中年の男と絹織工場の女工で住宅監理者のヴィクトーリア・ゲンリボヴナとが立って凝っとその様子を見ている。
信吉は閾のところで立ち止った。財産差押えに来たんだナ。そう思った。
ところが、若い二人の男はトランクを開けて中を検べるとそれをパタンとフタしてわきへどけ、封印なん
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