って、からかう気で、
「絹の靴下ねえから、行かないよ」
妙な顔して、アクリーナがすたすたまた小枝を踏みつけながら戻って来た。ぴったり信吉と向いあい、首をかしげるようにして、
「……嘘云うもんじゃないよ」
――あんまり本気な調子だ。思わず信吉はアクリーナの顔を見つめた。森へ行こうと云った本心がわかった。絹靴下が欲しかったんだ。信吉は額に皺をこさえて頭を掻いた。
「……行かないの?」
「ああ。……養育料払う金もねえもん」
「……木槌野郎!」
ツと信吉の前を抜けアクリーナは、片手で灌木の枝を押しわけ明るい道へ出てしまった。
六
信吉はズボンの皮帯を締めながら、クシャクシャな髪をして、隣の室へ出て行った。
朝日が室へ射してる。
寝台の上では、長年グリーゼルの大きな図体の下に敷かれて藁のはみ出した布団が捲り上げられたっぱなしだ。埃をかぶったまんま引っぱり出されてる藤づる大籠。カギのこわれた黄色いトランク。得体の知れないボール箱だの新聞包み。
取り散らされた家財の横で床板がめくられてる。
信吉はゆっくりそこまで行って、トントンと踵で嵌めこもうとした。
嵌らない
前へ
次へ
全116ページ中76ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング