しなした体つきや凝《じ》っと人を見る眼つきには、いやに抓りたいような焦々した気を起させるところがある。「鋤」工場の職場仲間だ。オーリャなんかと工場学校から来た婦人旋盤工だ。
 ジロリ、ジロリ見ながら信吉が訊いた。
「ひとりか?」
「――みんな先へ行っちゃった!」
 火のついたまんまの吸殻を河へ投《ほう》り、アクリーナは、
「ああくたびれた」
 肩を信吉の胸へもたせかけるようにして、小さい白粉入れをとり出した。蓋についた鏡をのぞきこんで脱脂綿の切れっぱじで鼻の白粉を直しながら、
「……お前の国にもこんな大きい河ある!」
「ある」
「公園あるかい?」
「あるさ」
「フーム。……ね、きかしとくれ」
 パチンと白粉入れをフタしながら急に勢こんでアクリーナがきいた。
「お前の国の女、奇麗かい?」
「奇麗なのも、きれいでないのもいらあ」
「……お前、何足絹の靴下もって来た?」
「絹の靴下?」
 ルバーシカ一枚の胸へぴったり若い女の体をくっつけられ少なからず堅くなりながら正面向いて返事していた信吉は、アクリーナの顔を見直した。
「何だね……絹靴下って……わかんねえよ俺にゃ」
「狡い奴!」
 クスリと
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