つも飲んだ。ベンチに長いこと両脚をつき出して休んだ。
「さ、引きあげようか」
河岸をブラブラ公園の出口に向った。
信吉はとっくに鳥打帽をズボンのポケットへつっこんでしまってる。黒い髪をいい気持に河の夜風が梳《す》いた。
不図《ふと》、何かにけつまずいて信吉は、もちっとでコケかけた。靴の紐がとけてる。
河岸の欄干側へ群集をよけ、屈んで編みあげかけたら、紐が中途で切れてしまった。
畜生! やっと結んで、信吉はいそぎ三人を追いかけた。
ところが、大して行くわけがないのに、見当らない。信吉は、注意して通行する群集、日本の縞の単衣みたいな形の服を着てお釜帽をかぶった、トルクメン人までをのぞきながら逆行して来た。見えない。――
フフム! 信吉は閉ってる新聞売店の屋体の前までさり気ない風でブラブラ行って、急に裏へ曲って見た。紙屑があるだけだ。
あんなちょっとの間にハグレたんだろうか。半信半疑だ。
信吉は、河を見晴すベンチの一つへ腰をおろした。
もう水泳場は閉められて、飛込台の頂上にポツリと赤い燈がついてる。むこう岸の職業組合ボート繋留所の屋根には青色ランプだ。後を絶間なく喋ったり
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