て片方の肱から手の平を出してる。グルリとかこんだ者の中から誰か、しっかりその手の平に平手打ちをくわして、素早く引こむ。サッとみんなが同じように指一本鼻の先へおっ立てる。中から、誰が鬼か当てる遊びだ。
 ハンケチで顔を拭き拭き、わきから眺めてるうちに、信吉は興にのって、鬼に当った男の手の平をピッシャリやってヒョイと指を立てた。
「お前だ!」
 アグーシャをさした。
「違う」
「そうじゃないよ!」
「さァ、さァ、もう一遍だ」
 ピシャリ!
「そら、今度こそ当った! お前だよ」
 アンナをさした。誰かがキーキー声で、
「お前、どうしてきっと女が自分を打たなきゃならんもんときめてるんだ! 変な奴!」
「――騙すなよ、おい」
 伴《つ》れらしいのが、大笑いしながら、
「本当に、お前が当てないんだから仕様がないよ、サァ、目をつぶったり、つぶったり」
 計らず信吉はその鬼から煙草一本せしめた。信吉の手が小さくて、そのノッポーで感の悪い労働者には、男だと思えなかったんだ。
 金がかからない楽しみでだんだん活気づき、信吉たちは、いい加減くたくたになるまで公園中を歩きまわった。赤い果汁液《クワス》を二本ず
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