切れねえ。
 信吉は思った。古くッからいる者だけが書きゃいいんだ。年の小さいピオニェールは、信吉にことわられて困った顔をしていたが、
「冗談じゃなくサア」
と云った。
「書くだろ? いくら?」
 しつっこい。そう思った拍子に、
「俺らロシア人じゃねえ!」
 ※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
 小さいピオニェールは、瞬間平手うちをくったような顔になって信吉を見てたが、ハッキリ一言、
「――お前、プロレタリアートじゃないってのか?」
 ちょいと肩をゆすり、一人前の労働者みたいな大股な歩きつきで、行っちまった。
 チェッ! 低い舌うちをして、信吉はやけに頭をかいた。何だか負けた感じだ。
 なんだ! つい横じゃ、信吉の台から廻す締金の先へ手鑢をかけてるオーリャまで、こっち見て奇麗な白い歯だして笑ってる。
 信吉はムッツリして働き出した。
 暫くすると、
「気にするこたねえ」
 グルズスキーが顔は仕事台へ正面向けたまんま小声で慰めるように云った。
「食堂にかかってる表《ひょう》へみんなが好きで名を書きこんだか?――決してそうじゃねえ。スターリンは、公債を買う買わないは自由意志だって新聞で云って
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