いつ、党員かしら。――信吉は鞣前垂にきいた。
「お前、党員かい?」
「そうじゃない」
手巻きタバコをくわえ、それにマッチをつけながら、
「党員の方がよかったか? ハッハッハ」
いかにも、こだわりない声で笑った。みんな笑った。
「党員だけがいい労働者にゃ限らねえ」
すると、わきの若い一人が、親指でその鞣前垂の広い胸をつっつきながら、
「これは、一九一七年の英雄だよ。この工場が『白』に占領されそうんなったとき、こいつは涙ポタポタこぼしながら樽のかげからつづけざまに『白』の〔十字伏字〕」
鞣前垂のゆったりした全身にはどっか際だって心持のいいとこがあった。
ジッと、潮やけみたいにやけた鼻柱と碧っぽい落付いた眼を見あげながら、信吉は、
「お前、何てんだ?」
と、きいた。
「俺?――ドミトロフだ。……わかったか? ドーミートーローフ。鍛冶部だ。二十年働いてる。お前が知り合いになった男が、『飛び野郎』じゃねえことだけは確かだよ」
五ヵ年計画で、あっちこっちへ工場が建ち、特に熟練工はソヴェト同盟じゃどこでもひっぱり足りない。
そこで、一部の労働者が、一つの地方から一つの地方へ、三ルーブリ
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