こ、これは今のみんなが注意ぶかくきかずにゃいられないことなんだ。信吉にはソヴェト労働者のその心持も、事情も親身に察しられる。信吉自身だって、アルハラの山奥から、いいことずくめを想像してモスクワへ来たときにゃ食糧難で実はびっくりしたんだ。
「日本に食糧はうんとあるんだ。だが、どうにも銭がねえ。……わかるか、俺のいうこと」
信吉はグルリとみんなを見まわし、
「――これが、ねえんだ」
指で円く形をして見せた。
「……失業が多いのかい?」
「ひでえ。ソヴェトじゃ、食糧の切符でも、とにかく労働者が第一列だ。〔四字伏字〕、〔六字伏字〕。……わかるか? 俺の云うこと」
「わかる!」
誰かが言下に答えた。
「わかるよ」
わきへよってそれ等の問答をききながら鞣前垂が紙巻き煙草をこさえていたが、真面目などっか心配そうな眉つきになって信吉にきいた。
「お前、ソヴェトが今どういう時だか知ってるか?……五ヵ年計画って何だか知ってるか?」
「知ってる……よくは知らないが、知ってる」
「ふむ、そりゃいい。今何より大事なことなんだ、われわれんところじゃな。いいこともわるいこともみんなそっから来てる」
……こ
前へ
次へ
全116ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング