か?」
と口をきった。
「ああ」
信吉は、本を指さした。
「それ、わかるのかい? お前に」
「これか?」
却って質問が合点いかないように運動シャツは本を持ちあげて信吉の顔を見ていたが、
「ああ、お前今度第三交代で入って来たんだろ」
と云った。
「俺は実習生なんだよ、工業学校からの……お前旋盤か?」
それから、その実習生がきき出した。日本に共産党[#「共産党」に「×」の傍記]があるか? 労働者の賃銀はどの位だ? そこへ、別のテーブルの連中もそろそろやって来た。
「……話わかるのか?」
「通じるよ」
すると、鞣の前垂れをした四十がらみの骨組みのがっしりした労働者が、
「お前、何てんだ?」
ときいた。
「シンキチだ」
「よし、よし。じゃあシンキーチ、きかしてくれ。お前ん国なんだね、〔四字伏字〕か?」
テーブルへ肱をついて信吉の方を見ていたカーキ色シャツの青年共産主義同盟員《コムソモーレツ》らしいのが、それをくだいて、
「〔九字伏字〕? まだ。それとも〔三字伏字〕か?」
と云った。
「〔八字伏字〕」
ガヤガヤみんな一時に口をきいた。
〔四字伏字〕なんだ。
そうじゃない。日本には
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