。
二
白っぽい樺板の羽目に赤いプラカートや、手描きのポスターが貼ってある。
この頃また建てましをやった「鋤」の食堂だ。果汁液《クワス》だの一杯二カペイキの茶、スイローク(牛乳製品)なんぞを売ってる売店の上んところに、ラジオ拡声器がつき出ている。
昼休みの労働者のための音楽放送だ。ところが今日はオーケストラそっちのけで、一つの長テーブルのまわりへ大勢がかたまってる。テーブルへ腰かけて、のぞきこんでる者もある。
「何ごとだい?」
信吉なんだ。本雇んなって三日目の信吉が、弁当つかってたら偶然みんながいろんな質問をはじめて、こんなにかたまっちゃったんだ。
水色と黒のダンダラ縞の運動シャツを着た若いのが、信吉のとなりで頻りに本をよみながら、ソーセージとパンをくってた。何心なく見ると、その本には機械の図解があって、むずかしそうな方程式が書いてある。
……職工でこれがわかるんだろか……。なお眺めていたら、その若いのがヒョイと顔をあげて、信吉を見た。毛色の違いにすぐ気がついた風だ。両方ともちょっとバツがわるいように見あったが、運動シャツの方が、
「お前ここに働いてるの
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