けの裸んなって、腋毛を見せながら、白い上っぱりを着た中年の医者の前へ立った。
「さて……見たところ達者そうだね」
信吉に舌を出させながら、
「お父さんとお母さんは丈夫かね」
「親父は丈夫です。お母は死んだ」
「何で?」
「知らない」
「肺病か、それとも――気違いじゃないか」
医者は人さし指をコメカミのところでクルクルまわして見せた。
「そうじゃないです」
「――子供のとき、ひどい病気はしなかったかね?――……餓えたこたァないかね?」
単純な恐ろしく真実な質問は信吉を深く感動させた。
体格検査をうけたのはこれで二度目だ。内地で徴兵検査のときと、――市役所で、陸軍の将校が来て、猿又までぬがした。〔九字伏字〕ときみたいな調べかたをしたが、餓えたことはないかとは、訊いてくれなかった。
信吉は丁寧に、どうにか食えてたと答えた。
「梅毒や淋病は患ってないか?」
つづけて医者がきいた。
旋盤の第三交代は、初め四日間、夜十二時から翌朝の七時まで働くと、まる一日休みで、次の四日間は朝八時から四時までにまわる。もう一度休みを挾んで、四時から十二時までの出番になって、その順でグルグルまわるんだ
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