で腰かけたりしているのを見たこともある。
そんなときでも親父は、パイプをくわえて、相変らず意地わるいドロリとした眼付で物も云わずかけている。女は、赤坊をかかえて、チョコンとその横にいる。信吉は、女を今日までグリーゼルの親類、姪かなんか、と思ってた。年だってその位違うんだ。
身分調べがすむと、女裁判官は、エレーナに訊いた。
「あなたは、どういう機会でグリーゼルと知り合いになったんですか?」
女は、フイとうつむいて、赤坊をつつんだ布団をいじくりながら黙った。
「……きまりわるがることはないんですよ」
励ますように女裁判官が説明してきかせた。
「すっかり事情がわからなければ、私共はあなたを助けたげることが出来ないわけです」
「私、仕事がほしかったんです」
「――それで?」
「私工場へ働きに出たことはないし、どうしようと思ってたら、チホーン・アルフィモヴィッチが、ソヴェトに知っている者がいるから、野菜の許可露天商人に世話してやるって云ったんです」
「それが今の職業ですね」
「ええ」
「どうして真直職業紹介所へ行かなかったんですか?」
「……うまく行くだろうと思ったんです」
咳きばらい
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