等ひろいところで五分だ。
この上に現在ぎっしり詰って生きている九千万人の人間を彫り出せと云ったら、いかな豆彫の達人もちょっと閉口するだろう。
東は太平洋だ。いろんな冒険家がアメリカとの間を横断飛行やろうとしているがまだ成功した者は一人もない。そんなに広い太平洋だ。
西は日本海だ。狭い日本で急速に資本主義が発達した。儲けるすき間のなくなった資本家が、先ず朝鮮をしゃぶり抜いて満州や沿海州へ侵入し、ひと当てやろうとしていることは知らない者のない歴史的事実だ。
大きいところでは南満州鉄道、北樺太石油、最近借区料問題でソヴェトとの間に大ごたごたをまき起し、さも日本の大衆に直接利害のあることみたいな体裁で騒ぎたてた露領漁業組合。――
信吉が働いていた××林業株式会社というのも、たち[#「たち」に傍点]はそれだった。木材をやすくアルハラの山奥から伐り出し、筏《いかだ》で船まで流して内地へ製紙原料、製箱用材として売り込む。それが商売だ。
去年の秋、××林業株式会社現場行人夫募集の広告を見たとき、自転車屋が潰れてあぶくれていた信吉は、気が動いた。
村じゃ、あぶくれの三男坊なんかにっちもさっ
前へ
次へ
全116ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング