こつか! と怒りました。
あんちゃとこの爺さま、きのう着物着てげんめん運動でみんなと町さ行ったよ。おら、地蔵でいきあったら婆さまもいっしょに歩いていた。信あんちゃさ手紙書くだ。せえったら、ばさまが気いつけてニンニクかめと云ってくれと云いました。
信あんちゃ、エハガキもっとおくれよ。おらも行ってみてえな」
へん! 生意気云ってらあ。真黒な裸足《はだし》で末っ子の糸坊を脊負わされて学校へ通っている卯太郎の顔が、ありあり目の前に見えて信吉は苦笑いした。町で、自転車屋に働いてた時分、信吉はよくこっそり卯太郎を自転車の後へのっけて村を一まわりしてやった。それで親類じゅうの誰よりなついて手紙までよこしたんだ。――どうかいいとこみてえに思ってやがる。……
何一ついいことは知らしてない手紙でも故郷からだんだん遠くへ遠くへと行く信吉にとっては、懐しいたよりだ。信吉は鼻をほじくりながら、長いこと膝の上の雑記帳から引ぱいだ紙を眺めていた。
二
地図で見ると、日本は実に小さい国だ。小学校でつかう千八百万分の一地図で、樺太《からふと》の端から台湾までたった六寸五分だ。幅はと云えば一
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