げな様子で、それを感じた。
 ところがモスクワへ来て見ると、そのソヴェトでも、決してみんな一様に暮してるんではねえ。
 現に信吉はここで八時間一ルーブリ六十カペイキの煉瓦砕きをやっている。案外暮しは楽じゃねえ。
 その信吉の目の前を立派な赤条入りの自動車にのった男が通って行く。しかし、下もあって、たとえば、あっち側の大きなパン店のところを見ろ。きっといつだって乞食の一人や二人ブルブルしながら立っているんだ。
 なるほど、特別いい装をした男や女ってものはモスクワじゃ見当らない。シベリアを汽車で来る間に見ていたような男や女が、いそがしそうに一日じゅう踵を鳴らして歩いてる。
 全国の職業紹介所は連絡していて、十日目ずつに労働省へ報告を出し、政府じゃ、どの産業に何人労働者が不足しているか、またあまってるかってことを、いつもハッキリ知って、ドシドシわりあてて行く。
 ソヴェトでは、産業を他の資本主義国みたいに箇人箇人の儲け専一にやってくんではねえ。ソヴェトには人間が一億六千万いるんだそうだ。その人間が食って、働いて、休んで勉強するには、一年これこれのものがいる。だんだんいいものを沢山拵えなければ
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