で茶を入れて飲む習慣だ。
熱湯配給所の小舎のわき、棚の前へ土地の物売りが並んでいる。
ゴムの尻当てみたいな輪パンがあるナ。いくらだ? 四十五カペイキ? たけえ!
樺の木の皮へつつんだバタを売ってる女がある。
次は――玉子。
バケツに塩漬|胡瓜《きゅうり》を入れて足元においている婆さんから信吉はそれを三本買った。ナイフで薄くきってパンにのせて食うんだ。
焼豚の脂肉《あぶらみ》――
鶏の丸焼もあるが、ヤカンを下げた連中は値をきくだけで通りすぎちまう。
やっぱり気をつけて金をつかってるんだ。
柵が終ろうとするところに、桃色の布をかぶった十五六のぼってりしたロシア娘が、可愛らしい口に細かい黄色い花の小枝を咬えながら、牛乳を売っている。
信吉は何しろ財布があやしいから胡瓜やオーブラ(干魚)で幾日もしのいで来ている。不意と濃い牛乳を流しこんで見たくなった。
「なんぼ?」
四合瓶に一杯つめたのを指して訊いた。
「五十カペイキ」
しめ、しめ! 確にそうきいたと思い、信吉は牛乳瓶をとって、娘の手へ五十カペイキわたした。
すると、どうしたこった! 娘はいきなり口から花の枝をほき出
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