をかついで、春の泥濘《ぬかるみ》にすべりながら低い川岸に散らばった。
村に近い番屋で働くようになると、人夫の金使いが荒くなった。
山から吹く風は冷たいが、太陽は汗ばむぐらいにぬくんで濁って水嵩のましたアムグーンの面や、そこを浮いて行く材木を照らした。川岸の腐った落葉の下から白い小さい雪割草の花が開いている。
源がジャケツに腹がけ姿でトビ口に靠《もた》れながら或るとき、
「この川っぷちとも今年でおさらばか……」
と云った。わきに蹲《しゃが》んで、草の芽生えを眺めてた信吉は、顔をあげて訊いた。
「……なしてだい」
「この会社も、もう来年までやっちゃいかれめえよ。何せソヴェトじゃ労働者が主人で労働法がガン張ってるから、内地みてえにいろんな口実つけちゃ労働者をキッキと搾れねえ。内地の景気あガタ落ちでも、ここで材木一本伐り出す費用にゃかわりがねえんだ。それに、なんだってえもの、この頃は逆にこっちの景気がよくって、今に日当が三四割がた上るって話だもん、お前、会社あたまらねえや」
源は、手洟《てばな》をかんだ。〔十七字伏字〕が土台から違うんだ。
いよいよ、××林業の現場引あげが目の前に迫る
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