寒帽をかぶったまんまでつめかけてるロシア人に混って手を叩いていたら、
「――どうだい」
 声かけた者がある。朝、二十七度だぞウと怒鳴った若い男だった。

        四

 これがきっかけで信吉は松太と、だんだん親しく話をするようになった。
 ちょうど、二十七度休み[#「二十七度休み」に傍点]があった十日ばかり後の宵のくちだ。ロシア労働者たちが、星空の下に白く凍った雪を絶えず、キ、キ、と鳴らしながら林の間を三号バラックの方へ集ってゆく姿が見えた。
 この間の茶番以来、信吉はロシアバラックの生活ぶりに好奇心を抱いている。いい加減集りきった頃をはかって、自分も行って覗きこんだ。
 へえ。……今日はまた、やに真面目なんだね。演説だ。バラックの奥ではランプの明りで赤い髪を火のように光らせながら、一人の若い男が立って喋ってる。ときどきつっかえる。そうかと思うとタワーリシチー! レーニン何とかかんとか※[#感嘆符二つ、1−8−75] 大きな声で叫んで拳固を上から下へ振りまわす。
 その男がすむと、眼っかちの、無精髭をはやした小男だ。唾をとばしながら何か云っちゃあ、裾のひきずるほどだぶだぶな自分
前へ 次へ
全116ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング