が、チョコチョコ小刻みにやって来た。
鳥打帽は、それを見るといそいで寝台のかげへかくれた。やりすごしといて、いきなり後から組つき、はりとばした。頭から空罐がスッ飛んでがんがららん。えらい騒ぎだ。ぶっこかされながら外套へあっちこっちに手を通した奴が、大きな声で何か云った。ワーッ。見物が笑う。
鳥打帽はとうとうとりかえっこに、自分が空罐かぶって、髯長に本をもたせて、鳥打帽をかぶせちまった。そして素早くまたかくれた。
今は鳥打をかぶらされ、ルバーシカだけになった髯長がヨタヨタ行きかけようとすると、またまた忍びよった者がある。棒をもってる。ルバーシカの胸にビールの口金をとって勲章につけている。
こん畜生!
というような掛声もろとも、これは手荒い。さんざん棒でひっぱたいて、クタリとなった奴をひっかついで、勲章を撫で撫で引こんだ。かくれていた元の鳥打が、姿を現す。
何とかかんとか、ウラーッ!
ウラーアッ! バラックを揺がす大喝采だ。
信吉にも、労働者らしい鳥打の方がよくて、ビールの口金を勲章にしたのや空罐をかぶったのは敵役だということだけは分る。伸びあがって笑いながら、山羊皮外套に防
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