をきりぬきつづけてる。だんだん人間の横顔らしいものがハッキリして来た。
「――レーニンだね」
「うん」
襟のところでレーニンの顔と向い合わせの一つづきに、もう一つ別の顔をきりはじめた。――マルクスにしちゃ髯がない。
「そっちは誰だい?」
「リープクネヒトさ!――九月第一日曜の国際青年デーに、僕たちの級じゃ、とても素敵な、特輯壁新聞出すんだヨ。『鋤』じゃ何仕度してる?」
「鋤」でも、国際青年デーの大衆的デモに持ち出す音楽の稽古で、昼休みのクラブときたら、騒ぎだ。
今日も広間じゅうを這いまわって、男女のコムソモーレツたちがプラカートへソヴェト同盟ヲ守レ![#「ソヴェト同盟ヲ守レ!」に枠線]と云うスローガンを書いてた。
色つやのいい唇をキット引しめ、気をつけてカール・リープクネヒトの秀でた額際をきりぬくと、ペーチャは、二つつづきの指導者たちの像を、ちょっと顔から遠くへはなして眺めた。
満足そうにところどころ仕上げの鋏を入れながら、ふと信吉に云った。
「――お前何故コムソモーレツにならないのサ」
――テーブルによっかかったまんま、信吉の顔は目立たない程赧くなった。――そう云われて、す
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