して千切れない、強靱な、明瞭なものが流れていて、黒い力が溢れそうになるとひとりでそこへ行って堤になる。ズリ落ちそうになると、引き上げる。
 口で云えない伸縮自在な、共通な力をもっている。その力を感じると、例えば信吉自身だ。人前に出せるロシア語じゃないのだが、それをも忘れ、何か云いたい、何とか云いたいものがグイグイ腹ん中から湧き上って来るみたいな頼もしい心持になるのだ。
(こないだ、鍛冶部の連中が、不平を鳴らさず半コップの牛乳を飲み干した時の様子からも、信吉は無言の、この力を感じた。)
 次から次へと、そういう心持が呼び醒まされ、現にどうだ。
 最後のしめくくりにヤーシャが、一言一言、ききて全体の心へ打ちこむように、消費組合監督突撃隊組織とその〔三字伏字〕任務について話してる今、所持品置場の内外に溢れたいろんな髪色の頭は、てんでに別なことでも考えてるか?
 いや、いや。
 信吉は自分をもこめて、みんなが見えない力に引きまとめられ故障なくコムソモーレツ、ヤーシャの提議を理解しているのを感じた。
「だから、タワーリシチ! 実によく分ったと思うんだ。現在ソヴェト同盟にある食糧困難が、五ヵ年計画
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