てある。そいつは間違えたのサ」
 掃除女は、喋るのに馴れてだんだん大胆にみんなを見廻しながら長い肱を動かした。
「そこで私がそいつに云った。お前さん、これじゃ勘定が違うよ。すると、どうしたね、お神さん? 私が云うのさ。お前さ、少なく書きすぎてるよ。すると、その売子が云うことには、そんなら文句はないじゃねえか、そいだけあお前さんの儲け分だヨ!」
 ドッと、みんなが笑った。掃除女の眼に新しい腹立たしそうな光が閃いた。
「――お前さん達は笑ってる! けんど、私は思ったね、消費組合は誰のもんだ! 一カペイキ半は僅かな銭だ。そう云って、みんながちょろまかしたら、消費組合はどうなるだろうか。……プロレタリアのものをプロレタリアがちょろまかす――そりゃボリシェビキのすることじゃない。私はそう思った。勘定書を書き直して貰った。売子はさんざっパラ悪態ついたよ、邪魔くさいって――」
 ちょっとまごついて黙ってから掃除女は、
「話はこれだけです。――私は、われわれんところで消費組合はいつもキッチリ働いてるとは限らないってことを云いたかったんです」
 聴衆の中がガヤついて根の深いところから揺れ出した。
「管理
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