年立つ? 列は長くなるばっかりで、そこに立ってるのはいつだって女なんだ!」
キラキラする黒い眼をせわしく瞬いて一気に云い終ると、アクリーナは、フンと云うように細い肩をもち上げた。そして、並んでかけてる男からタバコを貰って吸い出した。
ヤーシャが落着きはらってるのに、信吉は、びっくりした。心持頭をかしげ、ジッと注意ぶかくそれぞれの言葉をきき分けている。
「あのゥ……私も云わして貰えるかしら」
箒をわきに立てかけて、四十がらみの掃除女だ。
「……職場のもんじゃないんだけれど――」
いち早く、
「やれ、やれ!」
「お前の箒はお馴染《なじみ》だヨ! 遠慮するな!」
「……じゃあ……私は」
神経質に咳ばらいをして、掃除女はギゴチなく田舎訛ではじめた。
「はあ十五年労働婦人として働いてます。労働組合員で、区の女代議員ですが、こねえだ消費組合売店で、こういうことがあった。
私は茶うけに塩漬鰊を一キロ三分の一買った。塩漬鰊はキロ四十七カペイキだ。それに三分の一だから、六十二カペイキ半になるわけだ。……そうだねえ?」
「その通り!」
「――そこの売子が私に渡した勘定札には六十一カペイキと書い
前へ
次へ
全116ページ中101ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング