や反革命的な富農が、家畜の共有を嫌がって非常に多くの牛、馬、豚を屠殺した。それを補うために、国営、集団農場で行われた牧畜は僅か一パーセント増しているに過ぎない。その結果肉類の欠乏が来ているのだ。
 ソヴェト同盟内の集団農場の集団牧畜を急テンポに振興する努力だけが、この状態を根本的に救済するんだ。
 野菜類は、決して実質的に不足は告げていない。どこにも旱魃《かんばつ》で悩まされた地方というのはなかった。ところで現在、農村に集団農場、箇人耕作をする中農、及富農と並存している過渡的情勢で、一番、野菜類穀物類を売り出す可能をもっているのはどの部分か。富農だ。
 中農の箇人耕作は消極的性質で行われている。農業の社会化は五ヵ年計画の第一年でプログラムの二倍以上行われた。然し、それにしても、まだ建設期だ。特に野菜類を豊富に大衆へ行き亙らす程度にどの集団農場も発達しているとは云えない。
 最も市場に売り出せる余分の農産品をもっている富農は、ソヴェト権力が益々社会主義的前進をし、急速に資本主義的要素を排撃するのに反抗し、あらゆる方法で、ソヴェト経済を乱そうとしている。富農の売却サボタージュが、野菜その他の欠乏に重大な役割を演じているのだ。
 〔三字伏字〕大衆と党との協力による力強い農業の集団化、機械化によってだけ、プロレタリア経済に必要な農産物の供給は、富農の力を借りる必要なく行われるようになるのだ。
 全ソヴェト同盟の大建設事業に伴ってこの夏は、運輸が従来にない重大な意義をもっているにかかわらず、各所に貨物の渋滞、延着が訴えられている。或る駅ではキャベジ一貨車を腐らした。この事実は、プロレタリアートの建設事業の血管を管理している運輸労働者の大衆的自己批判を求めている。
 同時に、この際消費組合内部機構の批判も活溌に行われなければならない。ソヴェトの消費組合の社会的任務は、商品取引の過程から出来る限り資本主義的仲介人を追っぱらい、それを社会化し、国内市場を組織することにある。国営工業からはその生産品を出来るだけ安く、早く、便利に農村へ送るように。労働大衆が最も有利に賃銀を実質化すことを助けること。農業生産物を集め、それを合理的に都市の使用者まで持って来ること。これが消費組合の任務だ。
 党を支持し、〔二字伏字〕ある社会主義社会の達成に向って進むプロレタリア大衆は、益々広汎に消費組合の隊列に参加し、その正当な運用と活動を監督鼓舞しなければならない。

 みんな、いろんな恰好で、シーンと聞いてる。
 モスクワは暑く、かわいてる。市の鉄道切符売場の前の歩道では毎日朝から、有給休暇で「休みの家」へ旅立つ勤労者たちが切符を受とろうとして列をつくっている。
 まけず劣らずの列がパン配給店や、消費組合売店の角にある。暑いためもあって、そういう列の中で、男も女も怒りっぽかった。ひどく互同志で列の順をやかましく云った。
 胡瓜車だけが目立った。
「鋤」の中でもいつかしらみんなが食糧の問題を盛に喋くるようになった。
 口数の少いオーリャまでが云った。
「『金属』の休みの家では、でも、まだまだよく食べさせるってさ。野菜でも肉でもフンダンだってさ」
 ヤーシャが読んじまっても、みんな暫く黙ってる。
 頻りと爪をかんでたノーソフが不意に、
「ね、おい!」
 例のヤブ睨みになりかけたような眼つきで云った。
「……区の消費組合監督委員たちは一体何してるんだネ」
「……知らないよ。知るのは容易なこっちゃないよ」
 アーニャがプンと答えた。
「――大方、マカロニと石鹸とくっつけて置いちゃ、匂いがついて食えませんよって監督してるんだろ」
 信吉はヤーシャから新聞をうけとり、膝の上へひろげてウンサ、ウンサ一行二行と綴字を辿って、読まれた論文のよみ直しをやってる。
 区の「コムソモールの家」に文盲撲滅の講習会が開かれている。信吉は一晩おきに欠かさず通い、どうやら読めるようになったところだ。
 新しい世界が信吉の前へ一層深くひらきかけてる。
 オーリャの声だ。
「われわれんところじゃ、随分『機能清掃』がやられてるけれど、まだ消費組合の内じゃ、バタの大きい塊りが頭の黒い鼠にひかれたりするんだ」
 信吉は、昨日アグーシャから聞いた話を思い出して云った。
「――『赤いローザ』じゃ工場ん中の女代議員が、消費組合監督の突撃隊をこしらえたそうだぜ」
「……あすこはドダイ女が多いんだ」
「ちょっと!」
 オーリャが、のり出して強い美しい目で皆をグルリと見た。
「そういう問題に男と女の区別がある? まして、直接大衆の食糧問題と結びついてるとき、男と女の区別がある?」
「異議なァし! タワーリシチ!」
 ヤーシャが半分冗談みたいに、陽気に叫んだ。
「これは、階級的な問題だ。オカミさんだけの問題じゃない。
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