ェツォー※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]が、
 ――わざわざもって来たんですか?
ときいた。きのう、ここへ来た時やはり文化部で働いてるムイロフが、記念にといってソヴェトの一ルーブル銀貨をくれた。出来たばかりでピカピカ光ったきれいな銀貨だった。そのお礼に、そんなきれいではないがこの日本銀貨をもって来たのである。
 テーブルへ、三十人近い女がついている。日本銀貨は手から手へまわされ、或るものはてのひらの上へのっけて重みをきいた。が、みんな何ともいわぬ。見てしまったものは、勝手に、
 ――この腫れもの、痛んでしようがない。
 ――きのう何故診療部へ行かなかったのさ。
などとしゃべっている。
 農村で外国貨幣を見ることはない。農民はちょっとでも様子の違う金に対しては極度に警戒的なのだ。
「目をくぼませ、埃まみれになりながら何処へかかけて行く人々で廊下は一杯だった。ある室の戸があいていた。そこでは床へ直かに何人かが眠ってた。そばへ銃を置いて」
「十月」のスモーリヌイの廊下を、こうジョン・リードが書いている。
 今、日本女は、同じ廊下で壁新聞をよんでいた。
 ずっといい天気つづきだ。廊下
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