させる。イワン・ボルコフは工場委員会に働いている。労働通信員。
[#ここで字下げ終わり]
「亭主は女房をなぐる権利をもっているのでしょうか?」
 やっぱりこのスモーリヌイの婦人部の仕事で、農村の女を目標にいろんな講話会が開かれた。
 これはそのとき送られた質問の一つだ。

 スモーリヌイでは地階に大食堂がある。
 働いているものが、みんなそこで食事をしたり茶をのんだりした。外から来たものでも四十カペイキでスープと肉・野菜が食える。
 からりと開けはなされた大きい窓から、初夏の木立と花壇で三色菫が咲いているのが見えた。天井も壁も白い。涼しい風がとおる。――日本女は、婦人講習会員の間にかけて、黒パンをたべている。思いついて手提袋から、銀貨と白銅とを少し出した。それは日本のだ。
 ――これは五カペイキにあたるの、それが十カペイキ、そっちのが二十カペイキ……
 手にとりあげて眺めながら、日本女のすぐ隣に坐っている女は黙ってそれを次に渡した。うけとって眺める。まんなかに穴のあいてる十銭を、裏表かえして見て、首をあげ視線をあつめてる仲間を見わたし、一寸肩をすくめるような恰好をして次へわたす。クズニ
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