方からおちて来た。
――タワーリシチ! 何にもさわるな! 取るな! みんな民衆の財産だ!
広間から広間へ進むにつれ叫びはあっちこっちから絶えず聞えた。
――革命の規律! 革命の規律を守れ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
――タワーリシチ! 俺たちプロレタリアート・ボルシェヴィキーが盗人でも乞食でもないことを見せてやれ!
赤布を平服の腕へ巻つけた労働者赤衛兵はピストルを片手に、冬宮を引揚げる時全同志の身体検査をした。ポケットに入れられたものはどんな小さいものもとり上げそれを記入した。(中にはマッチの箱、ローソクの燃えかけという記念品[#「記念品」に傍点]もあった。)そべてそれらは、プロレタリア革命の名誉のためになされたのである。
赤衛兵は、日にやけた屈托のない若い顔で、広場を眺め立っている。冬宮は今博物館となっている。
日本女はゆっくりその広場を横切り、十月二十五日通りへ出た。家並の揃った、展望のきく間色の明るい街を、電車は額に照明鏡を立てたドクトルみたいなかっこうで走っている。
年経た、幹の太い楡の木がある。その濃い枝の下に、新聞雑誌の売店《キオスク》、赤い果物汁飲料《
前へ
次へ
全54ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング