ェツォー※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]が、
――わざわざもって来たんですか?
ときいた。きのう、ここへ来た時やはり文化部で働いてるムイロフが、記念にといってソヴェトの一ルーブル銀貨をくれた。出来たばかりでピカピカ光ったきれいな銀貨だった。そのお礼に、そんなきれいではないがこの日本銀貨をもって来たのである。
テーブルへ、三十人近い女がついている。日本銀貨は手から手へまわされ、或るものはてのひらの上へのっけて重みをきいた。が、みんな何ともいわぬ。見てしまったものは、勝手に、
――この腫れもの、痛んでしようがない。
――きのう何故診療部へ行かなかったのさ。
などとしゃべっている。
農村で外国貨幣を見ることはない。農民はちょっとでも様子の違う金に対しては極度に警戒的なのだ。
「目をくぼませ、埃まみれになりながら何処へかかけて行く人々で廊下は一杯だった。ある室の戸があいていた。そこでは床へ直かに何人かが眠ってた。そばへ銃を置いて」
「十月」のスモーリヌイの廊下を、こうジョン・リードが書いている。
今、日本女は、同じ廊下で壁新聞をよんでいた。
ずっといい天気つづきだ。廊下のはずれのあいた戸から、しずかな川が見えた。ネ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]河の支流だ。スモーリヌイの裏を流れている。
[#ここから4字下げ、破線枠囲み]
我々は馬じゃない!
[#ここで字下げ、枠囲み終わり]
鼻の穴をふくらがした馬の面が壁新聞に描いてある。
[#ここから4字下げ、破線枠囲み]
スモーリヌイの食堂のパン切はいつもひどく大きく切ってある。人々はみんな食べない。半分かじって放ったらかしてあるのをちょいちょい見る。我々は馬じゃない。人間の口に適当な大きさのパンきれがいる。それを幾切れでもたべたらいいじゃないか!
[#ここで字下げ、枠囲み終わり]
壁新聞発行所が主催で、レーニングラード市外の集団農場見学に出かけた記事がある。工業化債権に、スモーリヌイの勤務者が何ルーブル応募したとかいう報告が書かれている。――
壁新聞は、СССРじゅう至るところの役所、工場の職場、学校で発行されている。大抵、手書きである。漫画、写真をはったの、新聞雑誌からの切りぬきを編輯したもの。印刷の週刊工場新聞をもっているところでも、職場、職場はやっぱり手書きの壁新聞を、生産予定計画表とな
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