トのために活動する者としてのはっきりした立場から問いを出している。(市町村ソヴェトは上級ソヴェトと同様内部に文化部、衛生部、政治部その他専門部をもっている。ソヴェト員のあるものは、文化部員となる、或るものは衛生部員となる。各部はべつべつに集まり、ある問題を決議する。決議を一般集会のとき持ちよるのである。)
 相当しゃべって、ひとりでにみんなが黙った。突然、
 ――日本にも、女房をなぐる亭主が沢山いるでしょうか?
 思わず笑った、一同が。質問した女はどっかへ頭をひっこめている。笑いながら、みんなも日本女も、馬鹿な質問したとは感じなかった。古いロシアの農民はうんと女房をなぐった。亭主のそれが情愛だといってなぐった。そういう時代はもちろん去った。けれどもモスクワ発行の『労働者新聞』の「自己批判」の投書に、こういうのが出ることがある。
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 パウマン区何々通五八番地、室《クワルティーラ》十五号に住んでいる某々工場の職工イワン・ボルコフは、一週間に少くとも三遍は酔ぱらって夜中に帰って来る。彼は室の戸を先ずうんと叩いて近所を起こす。次に女房をなぐって、騒動で近所の子供の目まで覚させる。イワン・ボルコフは工場委員会に働いている。労働通信員。
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「亭主は女房をなぐる権利をもっているのでしょうか?」
 やっぱりこのスモーリヌイの婦人部の仕事で、農村の女を目標にいろんな講話会が開かれた。
 これはそのとき送られた質問の一つだ。

 スモーリヌイでは地階に大食堂がある。
 働いているものが、みんなそこで食事をしたり茶をのんだりした。外から来たものでも四十カペイキでスープと肉・野菜が食える。
 からりと開けはなされた大きい窓から、初夏の木立と花壇で三色菫が咲いているのが見えた。天井も壁も白い。涼しい風がとおる。――日本女は、婦人講習会員の間にかけて、黒パンをたべている。思いついて手提袋から、銀貨と白銅とを少し出した。それは日本のだ。
 ――これは五カペイキにあたるの、それが十カペイキ、そっちのが二十カペイキ……
 手にとりあげて眺めながら、日本女のすぐ隣に坐っている女は黙ってそれを次に渡した。うけとって眺める。まんなかに穴のあいてる十銭を、裏表かえして見て、首をあげ視線をあつめてる仲間を見わたし、一寸肩をすくめるような恰好をして次へわたす。クズニ
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