する傾向が強かった。ジイドは、自分の立場を確然とこれらの一群と対置しようとした。ソヴェトの偉業にたいする讚歎の情があればこそ、ソヴェトが彼に希望することを許したものがあればこそ強まる彼の批評精神によって「ソヴェトによって実現された事業は十中の八九まで実に称讚に価する」のであるが、のこる十分の一に示されていると彼が感じた「重大な誤謬」について率直に語ろうとしている。ジイドが「指摘する重大な誤謬にたいして、ソヴェトはきっと打克つであろう」という確信、「ある国の特殊な誤謬は決して国際的な普遍的な、主義の真理を傷つけるものではない」という人間の明智に対する信念によって――ジイドは、また、彼の論敵ら「秩序の愛と暴君の趣味とを混同する」徒輩が、この紀行文から手前勝手な利益を引っぱり出すであろうことをも、はっきりと予見している。しかも彼が敢てこの紀行文を公表するのは、上述のような人類的な確信と共に、虚偽に固執することは却って敵の攻撃に絶好の機会を与えるものであるという現実生活における経験及び「真理は、たとえ痛々しいものであっても、癒すためにしか傷つけないものである」という、誠実への献身に励まされての
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