ソフィヤ夫人が、巨人レフ・トルストイの思想と行為とを世俗の面へまで陥落させようとした時には常用の武器とされた子供たち。やがて、髭の剃りあとも青く母の側に立って「気狂い親爺」と父を罵り、子の権利[#「子の権利」に傍点]を主張した息子たち。それらの息子等の生活態度に反対しつつ、抽象的に人格の自由を重んじ無抵抗ならんとした心持が一つの矛盾となって、現実的な形での対立は固持し得なかった一家の父としてのレフ・トルストイの難破した姿。
思想的にはこれと意味がちがい、もっと弱い調子と日本らしい細部の表現とにおいてではあるが、芸術家としての夏目漱石とその家族の姿が思い出されるようである。
フランスは周知のとおり、昨今思想的にも実践的にも民衆の進歩的な意志が益々結合せられ、活溌に向っている。そのような社会事情にかこまれながら、孤児院出のジャンが、この如き経験をなめていることにも、私たちの心は様々に動かされる。
華やかで遊惰な雰囲気のニースでバルコンある別荘《ヴィラ》に住み、恐らくはロシアからかくしてもって逃げて来た金袋を減らしながら、思い出がたりで暮していたであろうお祖母さんオリガの、嘗てあった生
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