の観察によれば、その大部分が鼻もちならぬ連中であった)にとりかこまれ、無抵抗主義の信条で、全財産を放棄したがっているトルストイの希望に、怯え、憎悪し、それとの闘争に立ち向った第一の人は夫人ソフィヤと五男のアンドレイであった。ソフィヤ夫人は、子供等に対する家庭の父親の義務としてトルストイを責め、その考えに反対してアンドレイを先頭に立てた一群の息子たちは、当然息子に分けられるべき財産を、トルストイのとりまき共に横領されまいとする息子の権利[#「息子の権利」に傍点]の上に立って。
 この諍《いさか》いは、ソフィヤ夫人が直接トルストイの出版者であったという事情から、益々紛糾した。今や世界のトルストイが晩年に至って書きのこす日記の一冊、一枚のメモ、それは出版経営者としてのソフィヤ夫人が洩すところなく「私の[#「私の」に傍点]出版」に収録しようと欲するところであり、而も、トルストイの親友と称する連中も亦「未発表」の何ものかを獲ようととびめぐっている。トルストイは「この争いに生理的に耐え得なくなって来た」。八十二歳のトルストイは、日頃から家庭にある殆ど唯一の理解者、三女のアレクサンドラに手つだわせて
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